東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)187号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 引用商標の構成、指定商品、出願日、登録の日及び更新登録の日が、いずれも審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがなく、本願商標から生じる称呼と引用商標から生じる称呼は、「語頭の『ハ』の音と後半において『ダー』、『ス』の各音を共通にし、異なるところは、前者が『ハ』の音に長音が伴うのに対し、後者は『ハ』の音に続く音が『ン』である点にある。」とした審決の認定も当事者間に争いがない。
2 原告は、これらの相違点について、本願商標と引用商標「をそれぞれ一連に称呼した場合は、全体の語感語調が極めて近似したものとなり、相紛れるおそれがあるものといわなければならない。」とした審決の認定、判断が誤りであると主張する。
本願商標から生じる称呼「ハーダース」と引用商標から生じた称呼「ハンダース」とを比較すると、いずれも、語頭の「ハ」の音は共通する。しかし、これに続く音が、本願商標から生じる称呼では、長音の「ー」であることから、無声子音と母音「ア」を結合した「ハ」の音を軽く発音すればよく、長音の「ー」も、この軽い母音「ア」の発音を継続するだけでよい。これに対し、引用商標から生じる称呼では、語頭の「ハ」の音に続く音が撥音の「ン」であり、この「ン」の音を発音するために、語頭の「ハ」の音は強く発音されなければならない。そして、その母音「ア」が大開母音であることから、「ハン」と発音するには、比較的大きく口を開いて「ハ」と発音した後、「ン」の発音をするため、口を大きく開いた状態から軽く閉じる状態としなければならない。
また、本願商標の称呼では、前述のとおり軽い発音を継続する「ハー」の音に続いて発音される「ダース」も、「ダー」の母音は先行の「ハー」の母音と共通であることから、語尾の「ス」を発音するために口唇を軽く閉じるに至るまで、「ハーダース」と平面的な語調で一気に一音節風に称呼されるものということができる。これに対し、引用商標の称呼「ハンダース」では、「ハン」と発音されて、本願商標の称呼と共通する「ダース」の発音に入るには、口を軽く閉じる状態となること前述のとおりであり、この状態から、「ダース」を発音するために、再び口を開くことになり、本願商標の称呼のように平面的な語調で一気に一音節風に称呼するわけにはいかず、「ハン」と「ダース」との間で、語調を変化させ軽い音節風の区切りをもつて称呼されるものであることが明らかである。
そうすると、本願商標から生じる称呼の「ハーダース」は、平面的で一音節風の語調であるのに対し、引用商標から生じる称呼の「ハンダース」は、語調の変化があり、二音節風の区切りある語調となるものというべきであつて、両者における長音「ー」と撥音「ン」との差異は、全体の称呼に大きく影響するものということができる。したがつて、両者の称呼は語感語調が相違し、語感相紛れることなく、聴覚上十分識別し得るものというべきであり、「前者(本願商標の称呼)の長音は、その前音「ハ」の母音(a)に連係した長母音を形成する関係上、前母音に吸収され余韻として残る程度のものとみられるにすぎないものであり、また、後者(引用商標の称呼)の「ン」は鼻音であつて、前音「ハ」に吸収され易い弱音であるといえるものである。してみれば、これらの差が称呼全体に及ぼす影響は少な(い)」とした審決の認定は、相当でない。
したがつて、本願商標の称呼と引用商標の称呼について、本願商標と引用商標「をそれぞれ一連に称呼した場合は、全体の語感語調が極めて近似したものとなり、相紛れるおそれがあるものといわなければならない。」とした審決の認定、判断は誤りであるというべきである。
3 そうすると、原告主張のその余の点について判断するまでもなく、本願商標と引用商標とが称呼上類似するとした審決の判断は誤つており、この判断を前提にして、本願商標の登録を拒絶すべきものとした審決は取消しを免れない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容する。
〔編註その一〕 本件における請求原因は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和五五年一〇月三一日、別紙(1)のとおり欧文字「HERdER'S」を横書きして成る商標(以下「本願商標」という。)につき、第31類「調味料、香辛料、食用油脂、乳製品」を指定商品とし、昭和五五年商標登録願第八七九五四号の商標と連合する商標として商標登録出願(昭和五五年商標登録願第八七九五五号)をしたところ、昭和五七年六月四日拒絶査定があつたので、同年七月二四日審判を請求し、同年審判第一五八八八号事件として審理された結果、昭和六一年六月一二日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年七月三日原告に送達された。
二 審決の理由の要点
本願商標の構成及び指定商品は前項記載のとおりである。
これに対し登録第一〇八三五三四号商標(以下「引用商標)という。)は、「HANDER'S」の欧文字と「ハンダース」の片仮名文字とを上下二段に横書きして成り(別紙(2)参照)、第31類「調味料、香辛料、食用油脂、乳製品」を指定商品として、昭和四六年二月三日登録出願、同四九年八月一九日登録、その後、同五九年九月一七日に商標権存続期間の更新登録がなされているものである。
よつて按ずるに、本願商標と引用商標の構成は、それぞれ、前記のとおりであるから、その構成文字に相応して、前者よりは「ハーダース」、後者よりは「ハンダース」の各称呼を生ずるとみるのが自然である。
そこで、本願商標より生ずる「ハーダース」と引用商標より生ずる「ハンダース」の両称呼を比較するに、両者は共に称呼における識別上最も重要な部分である語頭の「ハ」の音と、後半において「ダー」、「ス」の各音を共通にし、異なるところは、前者が「ハ」の音に長音が伴うのに対し、後者は「ハ」の音に続く音が「ン」である点にある。しかして、これらの差異音である前者の長音は、その前音「ハ」の母音(a)に連係した長母音を形成する関係上、前母音に吸収され余韻として残る程度のものとみられるにすぎないものであり、また、後者の「ン」は鼻音であつて、前音「ハ」に吸収され易い弱音であるといえるものである。してみれば、これらの差が称呼全体に及ぼす影響は少なく、両者をそれぞれ一連に称呼した場合は、全体の語感語調が極めて近似したものとなり、相紛れるおそれがあるものといわなければならない。
したがつて、本願商標と引用商標とは、あらためて、その外観、観念の点について論及するまでもなく、称呼上類似の商標であり、かつ、指定商品も同一のものと認められるから、結局、本願商標を、商標法第四条第一項第一一号に該当するとしてその登録を拒否した原査定は、妥当であつて取り消す理由はない。
〔編註その二〕本件に関する別紙は左のとおりである。
別紙(1)
<省略>
別紙(2)
<省略>